やあ諸君、いかがお過ごしだろうか。
私だ。荻だ。
本日は富樫義博氏による少年漫画作品『HUNTER×HUNTER』の主人公格の一人「レオリオ=パラディナイト」について、私の一考察をお聞き願いたいと思う。
レオリオは軽薄で乱暴なところもあるが、義理人情に厚く、主要キャラの中では一番善悪に対する危うさが少なく、精神的に安定したキャラクターだ。
彼について詳しく知りたい者は、是非こちらの記事も合わせて読んでくれ。

今回私が諸君にお話ししたいのは、レオリオがプロハンターを目指していた理由についてである。
原作とアニメの両方でレオリオを見てきた私は、レオリオの矛盾に気が付いた。
そしてそれは、
「レオリオは本当は医者を目指していなかったのではないか」
という考えに至った。
この記事では、原作とアニメの両方からレオリオの言動に注目し、レオリオがハンターを目指した本当の理由について考察している。
レオリオは医者を目指していなかった、と感じさせるシーン
さて、今回私が諸君にお話ししたいのは、前述の通り「レオリオは本当にハンター試験に合格し医者になりたかったのか」についてだ。
HUNTER×HUNTERを読み、
レオリオは医者になることを目標としており、そのために必要な莫大な資金を得るためにプロハンターを目指した。
・・・こう解釈している者はかなり多いことであろう。
特にアニメ版では、むしろそのように編集が施されている。
・・・え、そうではないのかって?
私も始めはそう考えていた。
しかし、もう一度作品を読み返した時にある場面が引っ掛かり、そこから再度読み進めるうちに、レオリオは医者になるためにハンターを目指していた訳ではないのではないだろうか、という考えに至った次第である。
というか、これに関しては間違いないはずだ。
その根拠に関しては後述させてもらうとして、まずは私が引っ掛かりを感じたある場面の紹介をさせていただこう。
レオリオが船上でキレたシーン
レオリオは主人公「ゴン=フリークス」と感情が昂ぶり興奮状態となると目が緋色へと変化する「クルタ族」の最後の生き残り「クラピカ」とハンター試験の会場へと向かう船の上で出会う。
そこで三人は船長からなぜハンターになりたいかを問われ、クラピカは自身の同胞が皆殺しにされ、その犯人達をとらえるためだということを明かす。
一方レオリオは、「金さ。金さえありゃ何でも手に入る!」と答え、それに対しクラピカは呆れたように「品性は金では買えないよ、レオリオ」と返した。そこでレオリオは激昂する。
「(呼び捨てが)三度目だぜ。表へ出な。うす汚ぇクルタ族の血を絶やしてやるぜ」
さすがのクラピカもこれには業を煮やし、二人は一触即発。
そしてここで、二人を止めようとした船長を制し、ゴンが言ったセリフがこちらである。
「オレには二人が怒っている理由がとても大事なことに思える。だから放っておこう」
はじめて原作でこのシーンを見たときには、レオリオという男は非常に気の短いキャラクターなのだなという程度に感じていたが、再度このシーンを読んだ際にかなり違和感を覚えた。
果たしてレオリオこんなことで自分を御しがたい程の怒りにかられるような男だろうか。
一度でも作品を読んだ者は分かるだろうが、レオリオはそんなに底の浅い男ではない。
ここでレオリオが激昂したいくつかの場面を見ていこう。
- ハンター試験会場に向かう途中で投げかけられた「息子と娘が誘拐された。一人しか取り戻せない。どちらを選ぶ」という問い掛け(通称ドキドキ2択クイズ)に対し、人の命を天秤にかけるような問題、そしてそんなものに答えを求める試験そのものに激怒し、試験官に殴りかかろうとした。(ちなみに正解は「選ばない=沈黙」)
- 最終試験で、暗殺一家の一員であり共に試験をくぐり抜けてきた「キルア=ゾルディック」が兄である「イルミ=ゾルディック」から「お前の天職は殺し屋、友達を作るなんて無理」と言われた際に、キルアに「お前の兄貴はクソ野郎だ!お前とゴンはとっくに友達だろう!」と怒号をあげた。
- ゴンが意識不明の重体となったとき、見舞いにすら顔を出さないゴンの父親「ジン=フリークス」に一言物申すために次期ハンター協会会長を決める選挙会場に乗り込み、当時ハンター協会最高幹部でもあったジンに対し「いっぺん死ね!」の言葉と共に拳をふるった。
たしかにレオリオは言葉が粗暴で思慮が浅く気も短い。
だが、まとめてみると、彼はいつも世の理不尽や仲間のために怒っていたことがわかる。
クラピカにとっての「とても大事なこと」は理解できる。クルタ族を侮辱されたのだ、怒るのは当然であろう。
しかし、レオリオにとっての「とても大事なこと」はいったいなんだろうか。私はそこに、レオリオがハンター試験を受けた理由が関与すると考えている。
そしてその理由には、レオリオが医者を目指していなかったということも関わってくる。
レオリオの発言
レオリオ医者志望じゃなかった説の根拠として、原作でのハンター試験中のレオリオやまわりのキャラクターのセリフがあげられる。
原作では、ハンター試験終了後にレオリオは「やっぱり医者になる夢は捨てきれねえから、これから医大を目指す」と言っている。
つまり、この時点ですでに医者を諦めていたことが分かる。
ちなみにアニメでは「捨てきれない」という部分はカットされており、他にも試験中のセリフが、
原作 | アニメ |
「こう見えても医者志望だったんでね」 | 「こう見えても医者志望なんでね」 |
「お前さん、医者志望だったんだろ」 | 「あんた、医者志望なんだろ」 |
というように編集されている。
このように原作では医者を目指していたのは過去のことであることが示唆されているセリフがいくつかある。
アニメ版ではテンポや尺などの問題であろうか、カットされているシーンも多い。
上記のような表現も、視聴者がよりスムーズにストーリーなどを飲み込めるようにという配慮であろう。
また、ハンター試験に合格しプロハンターとなれば、その社会的信用度から医大への莫大な入学金は免除になるのである。
つまり、ハンターにさえなってしまえば資金を得ずとも、そもそも学費はかからないのだ。
レオリオが医者になるためにハンターを目指していたのであるならば、金を執拗に求めるというのは不自然に思える。
医者になるための資金繰りとしてハンターを目指す、というのは根本的におかしいのだ。
以上のことを考えれば、レオリオが医者を目指していなかったというのは考察などではなく、少なくとも原作の中ではれっきとしたレオリオのキャラ設定だったことが分かる。
であれば、なぜレオリオは執拗に金を求めていたのだろうか。
レオリオがハンターを目指した本当の理由は「医者になるため」ではない
さて、ここまでは「レオリオ医者になるためにハンターを目指した説」を唱えるにきっかけとなったシーンをご紹介してきたが、いかがだっただろう。
ここからはさらに、レオリオやクラピカの言動に注目し、レオリオがハンターを目指した本当の理由について考察していきたい。
そのためにも、まずはレオリオの過去からおさらいしていくとしよう。
友を亡くした経験から「金」を求めるようになったレオリオ
レオリオが金に固執する理由は彼の過去にある。レオリオは過去に友人を病で亡くしている。しかしその病は決して治せないものではなかった。ただ、その治療に必要な金を用意することができなかった。
そして、金が無いために彼の友人は命を落とすことになったのだ。
その時のレオリオの胸中は察するに余りある。
しかしレオリオはそんな悲痛な体験を経て、自らが医者になり無償で人を助けようと決意する。友達のような人間を生まぬよう、自分のような思いをする人間が出ぬよう、金で命が左右されぬようにと。
だがそこで立ち塞がったのが、またもや金であった。
医者になるためには途方もない金が必要だったのだ。
そこでレオリオはハンターとなりその金を稼ごうとした。・・・というのがアニメ版の表現だが、前述の通り原作ではそうではない。
私はここでレオリオの心は折れてしまったのではないだろうかと考える。
友人を失ったときに抱いた絶望、喪失感、無力感、虚無感、後悔など数え切れぬ程の負の感情がレオリオを襲っただろう。すべては金が無いことによって引き起こされている。そして、医者になるというレオリオを失意の底から救うかすかに差した光さえも、再度金によって閉ざされることになる。ボロボロになり、やっとの思いで立ち上がったところに、また同じ問題よって打ちのめされたのである。気持ちを保つことがいかに困難かは想像に難くないだろう。
レオリオは誰よりも金を憎み、そして誰よりも金の重さを知ったはずだ。
だからこそ彼は純粋に金を求めているのだ、というのが私の考えである。
彼が金を求める理由は、医者になりたいなどの明確な目標あってのものではなく、もっと複雑で後ろ暗いものであり、過去にそれがなかったことにより受けた苦しみや絶望を二度と味わうことのないよう、必死にただそれだけを追い求めもがき苦しんでいる、ということではないだろうか。
レオリオが船上でキレた本当の理由とは
以上のことを踏まえると、前述したレオリオの「とても大事なこと」が見えてくる。
レオリオがクラピカに激昂した理由は呼び捨てにされたことなどではなく、クラピカの「品性は金で買えない」という言葉ではないだろうか。
なにが品性だ、くだらねえ。品性でオレの友達は救えたか!?
俺の友達は金で死んだんだ。金で買えないものなんてない、金は命すら買えるんだよ!
その時のレオリオの心情を想像すると、こんな感じだろう。
レオリオにしてみれば、金は命よりも重く、その時には生きる目標でさえあったはずだ。
存在そのものや、生きてきた人生すべてを否定されたように感じたのではないだろうか。
そのように考えるとレオリオの、
「(呼び捨てが)三度目だぜ。表へ出な。うす汚ぇクルタ族の血を絶やしてやるぜ」
という発言は「呼び捨てされてキレた」わけでは無いことが分かる。
前述の通り、彼はその程度で怒るような人間ではない。
船上でクラピカの発言に激昂した本当の理由は「憎むべきはずの金を追い求めることでしか傷を埋めることができなかった今までの人生を否定された様に感じたから」なのではないだろうか。
クラピカの原作とアニメでの反応の差異
船上では一触即発だったレオリオとクラピカだが、お互いに相手の本質に気づき始め、信頼し得る仲間として見るようになってきていた。
クラピカはレオリオに一次試験の最中「本当に金のためだけにハンターを目指しているのか」と尋ねる。
思えばこれはクラピカの願望のこもった問い掛けだったのだろう。
「金儲けだけが生きがいの人間は何人も見てきたが、お前はそいつらとは違う」というセリフからも分かるとおり、私が信頼する人間なのだ、お前はそんなゲス共とは違うだろう。という心の声が聞こえてきそうである。
答えをはぐらかそうとするレオリオに対し、自身の「緋の目」を取り戻すという己に課した使命を打ち明けることによってクラピカはその信頼を示した。
私はここまで言った、お前を信頼しているからだ。だからどうか本当のことを言ってくれ。お前が本当に求めるのは金では無いのだろう?
というような心情だったのだろう。
しかしレオリオの返答はクラピカの求めていたものではなかった。
「悪いな、オレにはお前の志望動機に答えられるような立派な理由はねーよ。オレの目的はやっぱり金さ、金で買えないものなんかなにもない、物は勿論夢も心も、人の命だって金次第だ」
クラピカは「撤回しろレオリオ、クルタ族のことを言っているのなら許さんぞ」と怒ったが、そこには少なからずそんなはずがない!お前はそんな人間ではないだろう!という気持ちもあっただろう。
それに対しレオリオが「金があればオレの友達は死ななかった」と漏らし、自身の過去を打ち明けることとなった。
そのあとのクラピカの反応が原作とアニメでは異なるのだ。
旧アニメ版では、レオリオの身の上話を聞き「そうだったのか、うそつきめ」「なれるといいな、医者に」と言って満足げに微笑む。
※画像が新アニメの上そう見えないのはご愛敬
しかし原作でクラピカは、口をつぐみなにか思案しているかのような表情となる。
どうして同じ流れ、同じセリフでこうまで反応が違うのか。
それは、
- アニメ版→レオリオは医者になりたくてハンターを目指した
- 原作→レオリオは医者志望ではなく、純粋に金が欲しくてハンターを目指した
ということで間違いないだろう。
つまり、原作とアニメでは「レオリオがハンターを目指す動機の設定」がそもそも違うのだ。
アニメ版ではレオリオが金を求めるのは医者になるためであり、それはクラピカが求めていた答えでもある。
しかし原作では、理由はあるが結局求めているのは医者になることではなく、純粋に金を得るためだというクラピカの望まぬ答えであった。
これがクラピカの反応が著しくアニメと原作で違う理由であろう。
アニメ版の方が一見スッキリしていて話も分かりやすく良さそうにも見えるが、原作はレオリオが自分を失意の底に陥れた諸悪の根源でもある金を一心に求めるという矛盾を自らに抱えており、同じく心に深い傷を持つクラピカとの対比によって、より二人のキャラクターの造形を深く描き出していると言えよう。
まとめ
ここまでさんざんレオリオは医者になるつもりではなかったというように言ってきたが、心の中に医者になりたいという気持ちが完全になくなってしまっていた訳ではないだろう。
レオリオ自身、金を得ることで心の傷を埋めることは根本的な解決ではないことを分かっていたはずだ。
ハンターになれば目指していた医者にもなれるかもしれない。
だからこそレオリオは自分を奮い立たせることができた、というのもまた真実だろう。
「やっぱり医者になる夢は捨てきれねえから」
という言葉にもそれは表れている。
そして、レオリオの荒れた心を癒やしてくれたのは、ゴン、キルア、クラピカなどの仲間達であろう。
三人の意志の強さや、仲間を思いやる優しさに触れ、そして仲間とともにいる心地よさからレオリオの心のモヤが晴れてきて、本来自分の成し遂げたかったことに気づき、再度医者を目指すに至ったのではないだろうか。
以上が私の唱える、レオリオ医者志望じゃなかった説である。